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隣の三毛

 【生活保護申請】

翌日から、亜希子と僕は行動を起こした。まず、生活保護者申請のためにB市の市民課へ行く。生活保護担当者はカウンター越しにあ、またかというような、一瞬だが僕たちを蔑むような目つきをした。

まず、B市に住民票がないこと、配偶者がいること、しかも財産を調べる、という。他人の家の仮住いではだめである、なぜならB市民の税金を使うことになるから。次に、家出中といっても配偶者がいるということは、生活手段が他にあるということであり、申請などは正式に離婚が成立してからのことである、という。そのうえ、不動産や預貯金など本人名義のものがあればこれも一切だめである。それらを説明したあと「まず住む家から探すことですね」と担当者はあっさりと、しかもけんもほろろに言い放った。

 あとで聞くところによるとB市は申請者が多く、特に厳しくて、弁護士が行っても申請手続きを断られるそうである。しかし、あきらめるわけにはいかなかった。

 【離婚調停】

女は来る10月15日にわずかな国民年金が通帳に入る予定だが、まず受け取るべき通帳を持たないために、キューインで108円の三文印を求め、100円を入金して郵便局で新規の自分名義の通帳を作った。それから、国民年金機構に行き、年金振込先銀行の変更手続きをした。これで、受給日には自分の通帳に年金が入るはずであった。

 それから、もう二度と夫の元へ帰りたくないという亜希子は、無料相談したアステラス法律事務所の弁護士のすすめで、離婚手続きのために簡易裁判所を訪れた。事情を聞いた裁判所は調停を勧めた。その書類手続きは記入に時間を要したが、受理された。あとは、夫と話し合いの機会を裁判所の調停員が進めてくれるはずだ。

 まもなく、呼び出しの通知を受けた夫が、裁判所ではなく、僕のうちに電話をよこした。怒り心頭に発した電話である。「そんなにまで別れたいんなら、直接自分に云え、裁判所まで話をもっていきやがって、いつでも印鑑なら押してやる」と。僕につたえれば、亜希子に話が伝わるとでも思ったのか。

 しかし、第1回目の呼び出しは、無視された。夫は事情聴取に出頭しなかったのだ。