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隣の三毛

【借金まみれ】

亜希子は、離婚調停中の証明書を持参して、保証人の兄と市役所を訪れた。

新しい住所も決定し、年金受給先変更も済ませたので、生活保護の申請を改めて行うためだ。

 しかし、10月15日の受給日になっても新たに作った自分名義の郵便局の通帳には年金は振り込まれていなかった。アパートの家賃を支払おうにも手元には現金が一切ない。市役所の担当者が親切にも、以前の振込先銀行に問い合わせてくれた。原因が判明した。なんと、夫は亜希子の年金を担保に銀行から借金をしていたのだ。年金機構から支払われる月4万円(2ヶ月毎に8万)の入金から3万円を月々の返済に充てる契約になっていたのだ。したがって、銀行は亜希子の郵便貯金通帳に振り込む変更手続きはできなかった。

 完済にはあと2年かかるというのである。

夫はあちこちから、借金をしていた。数年前、亜希子の親が亡くなった時、彼女は兄弟から形見分けとして100万円を譲渡されたのだが、目の前で夫がそのまま持って行ったというのだ。結局彼女には一文も渡らなかった。それどころか、体の弱い亜希子を無理やり押し付けられて医療費が掛かると言いがかりをつけては、亜希子の知らぬところで両親に金銭を無心をしていたのだ。

 結局のところ、離婚調停に応じない理由のひとつに彼女のわずかな年金を当てにしていたのだ。

【計算違い】

、商売が順調だったころは、社員も何人も雇い入れて繁盛し、どこからみても幸せな家庭だった。

 ところが、ある日交通事故で障害者になった長女に1億数千万円の保険金が入った。夫はその金を子供の将来にとっておくべきだったのだが、とたんに人生が狂い始めた。二人の子供達を隣町の高校にタクシーで通わせたり、ギャンブルにも熱を上げていった。店舗兼自宅はいつのまにか借金の形に取られて、売りに出され、家主の温情で借家住まいにはなっていたが、その家賃さえ何年も支払わない状態で、生活費にも事欠く状態だった。

 実情を知った兄夫婦と市役所の担当者は驚いた。 つづく